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小林 治 インタビュー

ーー何かの記事で読んだのですが、林静一さん(※1)に影響受けたと…

小林 そうそう、最初に原画やったのも狼少年ケンだから。その頃はソウさん(林静一)って言ってたんだけど、彼は月岡さん(※2)の下でやってて。月さん抜けたでしょ?そうするとソウさんが中心になってやってたね。他に三班か四班あって、俺と芝山さんは林さんの班にいたから。

                                                           (中 略)

ーー「ホルス」(※3)の時は東映に?

小林 もちろんもちろん。その頃俺の班では「ハッスルパンチ」かなんかやってたんだけど、パクさん(※4)がね…たぶんよ。色んなアニメーターに設定描かせたんだよね。俺はソウさんの側にいたから彼が描いてるのを見てたんだけどさ。「ホルス」の最初の方のシーンでさ、岩男がドンと地面から出てくる場面があるでしょ?あれはパクさんのアイデアなのかもしれないけど、ソウさんは崖の壁面から出てくる絵を描いてたんだよね。そういう設定を描いてて、こういうのいいなーっ素晴らしいなって思ったんだけど、後でフィルムになったのを観てみるとね。地面から腕が出てくるのは凄いと思ったね。

ただ俺が一番凄いなって思ったのは大塚さん(※5)が原画のホルスが川縁でさ巨大な魚とやり取りする所あるでしょ?あのシーン観てびっくりしたけどね。あれはイトウっていう魚らしいんだよね。北海道の。あの動きに衝撃受けたね。

                                                           (中 略)

ーーレイアウトを描くときに気を付けている事はありますか?

小林 追求するのは実写のカメラマン。上手い人の構図のものっいうのは憧れるよね。その典型的なのは「灰とダイヤモンド」だよねアンジェイ・ワイダ監督の。最初は凄さがわかんなかったんだよね。それと「第三の男」この2つだな。

                                                           (中 略)

ーー動きについてもお聞きしたいのですが、日本のアニメは3コマが基本で。でも小林さんの場合4コマや6コマを使われますよね?その辺の発想とか、始めたキッカケとかあったんですか?

小林 俺が原画描いて自分で動画やってるから(ふるさと再生では)少ない方が良いて思ってさ(笑) ただタイミングはね、人間の一歩っていうのはさ、2コマでも中二枚じゃない。(走りの場合)それを4コマや6コマにしているだけの話だから。

ーー変則的に暫くカクカクコマ打ちを使って(4コマや6コマを)いきなりキュッと動たりする時(2コマや3コマを使う)あるじゃないですか?ああいうのは自然に出ちゃうんですか?

小林 やっぱり人の真似なんだよね。

ーー真似、どなたの?

小林 大塚さんの真似。もの凄い合理的なんだよ教わったら。Aプロ時代に大塚さんの原画で「あれっ」て思ったのはね、全部原画で、それが動画になっちゃうんだよ。足をカタカタって着くシーンで、見たら原画だけなんだよ。中要らない。                                                                                                                                                                (中 略)

ーー最近のアニメは絶対手前の物はボカしちゃうますね。あたりまえのように。

小林 そういう小賢しいって言うかさ。そういう事はしない方が良いんだって。そういう事を自分もやってきたから思うんだけど。

例えばカメラを空にちょっと向けた時にレンズの光が出るじゃない。六角形のハレーションが。こういう事はやらない方が良い。そういう事は一切やらない方が良い。だって本来そんな事はさ。いや、実写だったらね、それなりに意味あるのかも知れないね、そういう効果をねらってね。アニメーションでそんな事やる必要ないだろうって思うわけ。あるいは太陽を極端に大きく描いたりさ、するじゃない?

地平線にこうやって、小さい人物が、あんな巨大な太陽があるなんてあり得ないんだよね。カメラ考えればさ。だから俺の見てもらうとね、月は全部小さい。太陽はみんな小さい。いや、俺のが良いって言ってるんじゃないんだよ。あんまりそういう風にさ、あざとくしない方が良いっていう事。

ーーでもそういう事ができるのもアニメーションならなのでは?

小林 そうだよ。でも実写でやるでしょ?(そういう表現は)

それは何でもできるんだよアニメーションは。それをグッと押さえてさ、我慢してさリアルに考えた方が良いって事。やりたがるんだよ皆。やりたがる事をすぐやっちゃ駄目なんだよ。大塚さんが持ってる文章をチラッと読んだ事があって、なにしろ原画に入る前に考えろと、この原画、カットにね、スタートする前に良く考えろと。それができねぇんだ、俺なんか。すぐ、すぐ手が動いちゃうんだ。(笑)

それは本当は良くない。じっくり考えてさ、どうやってこのカットをやっつけようかなって思うことなんだよね。

俺なんかすぐ描きたくなっちゃうんだよね。出来上がったカットはもうこっちに置いてあるんだけど、(出来上がったものの)う~んって考えて…だんだん気分が悪くなって、「全部駄目だ」ポンと捨てちゃってね、描き直すとかって事もあるよね。早く描きすぎるとだいたい上手くいかない気がするんだよね。いやでも上手くいく時だってあるんだけど。

                                                           (中 略)

ーー「せともの祭りの雨」は動画まで小林さんでびっくりしてましたが。

小林 疲れちゃったよ。(笑)

ーーあれって何枚位?

小林 少ないよ。三百枚か、そこいらじゃないの。

ーー限られた枚数で動いてるっていう。初っぱなの動きとかをそこだけ抽出してずーっと観ていたいなって感じですけど

小林 そうなの(笑)恥ずかしいね。

動画やってるとね、面白い事は面白いんだよ。一番まずかったのは女の子が最後に逃げだす所ね。横イチで走っている所。あれはもう駄目。あの動きは失敗した。あそこはもうちょっと力入れて描かなきゃいけなかったな。後はだいたいこんなもんかな、って。

ーー昔話は話を選べたりとかはできないんですか?

小林 そうじゃないんだよ。これがまた一苦労なんだけど、俺なんかはさ、ある程度古くからやってるから好きに変えさせてもらうよと。言って、ほとんどシナリオは書き直す。全部書き直す。ほとんど俺の場合は。「平四郎」ってのがあったんだよ。あれもまったく使ってない。シナリオを。

ーーあ、そうなんですか!

偉いお坊さんになって、あれが私ですよ、っていう話の。下駄で殴られるやつ。

小林 あれなんかね、シナリオ読んだらね、三十分位いっちゃうんだよ。

ーー小林さんが関わった、印象深い作品というと?

小林 「新ど根性ガエル」の最初の作品は以外と好きだよね。後、あんまり覚えてないんだよ。記憶が…ほとんど忘れていっちゃう。(笑)

※1 ソウさん(林 静一)

ロッテキャンディー「小梅」のキャラクター「小梅ちゃん」のイラスト担当

※2 月岡さん(月岡貞夫)

「狼少年ケン」の原作、監督、「北風小僧の寒太郎」作画

※3 ホルス

「太陽の王子 ホルスの大冒険」1968年公開の東映動画製作の劇場用アニメ映画

※4 パクさん(高畑 勲)

「じゃりン子チエ」「火垂るの墓」「かぐや姫の物語」等の監督

※5 大塚さん(大塚康生)

「ムーミン」「ルパン三世カリオストロの城」等の作画監督

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